きょうも何かを忘れたようだ

一瞬を記録する場所

本は社会を変えることはできない/それでも本のような人になれ/ドラマ「ロマンスは別冊付録」が描く、言葉への愛

Netflixで視聴した「 #ロマンスは別冊付録 」は、タイトルが激甘で一瞬引きますが、出版社が舞台の「言葉の力」とその器である「本」と本づくりについてのドラマ

f:id:kinaribon:20210209230903p:plain

主演のイ・ジョンソクはビジュアルを武器にしつつ、脚本に込められたメッセージを伝える演技巧者。

 

www.netflix.com

夏目漱石による「月が綺麗ですね」のエピソードも重要なモチーフになっています。

とにかくたくさんの詩が出てくる物語なのがまずよかった。
※追記
こちらのブログで紹介されているように、このドラマ制作の直前にジョンソクさんは詩集をつくるという経験をしている。

今回の詩集のために1年余りの時間の間秘密裏に準備をしてきたと聞きました。 いよいよ来週に本が世の中に出てくるが、感想はどうですか?
私のSNSにも所感を上げたが、このように本一冊が出てくるまで長い間の悩みと煩悩が必要だという事実を初めて悟りました。 このような過程を乗り越える著者の偉大さを感じたし、見えない所で本当に多くの方の努力が共にすることをもう一度知るようになりましたよ。 今回のプロジェクトを無事に完成することができるように助けてくれたナ・テジュ先生に最も感謝した心が大きいです。


https://ameblo.jp/ljs8/entry-12348008599.html

ameblo.jp


いち俳優の意見が、ドラマ制作に生かされるかどうかは定かではない。
けれど、真偽もわからない情報があふれかえる現状のなかで「詩の力を信じている役者」が、エンターテインメントとして「良書」への信頼とそれをつくろうとする人の情熱を主題にしたドラマに魂を吹き込んだであろうことは想像に難くない。

出版社を舞台に、言葉の力を信じ、その仕事の厳しさと尊さをエンタメ作品として昇華する脚本力と俳優陣の演技力に脱帽。

また、認知症の受容やブランクが空いてしまった専業主婦→シングルマザーの再就職の困難さ、売れない作家の苦しみ、使えない無鉄砲若手社員の成長など、サブテーマも充実。本のマーケティングなどの動きも面白く、それぞれ無理なくストーリーに取り入れられている。

このドラマに主演している俳優のイ・ジョンソク さんは、日本にはいないタイプのカッコよさ。

日本だと、佐藤健さんとちょうど同世代。
若手ですがその童顔とイケメンぶりに騙されてはいけない演技巧者だ。
(彼は脚本の選球眼に優れていて、ドラマにほとんどハズレがない)

子犬のようなビジュアルを利用して、硬派なメッセージを甘く伝える自分の役目を心得ている。

今回はネット時代に「本が売れなくなったこと」に直面した出版人の「良書を作り続ける価値とその仕事へのプライド」を、イチャコラシーンのコーティングの下に埋め込んでいます。

彼は、彼のビジュアルや甘いシーン目当てでドラマを見たいという人に、テーマの重要さを密やかに伝える「役者」に徹している。

犯罪被害者と冤罪、報道被害、ネット時代の創作者の苦悩など、彼の主演作は甘いレンアイシーンやファンタジーを外すと、社会が抱えている問題とその乗り越えをコンセプトにして、きっちり描いているドラマが多い。

この作品もタイトルが激甘で視聴に躊躇したのだが、人生と本についてゆっくりと考えたくなるドラマだった。
とりあえずエピソード8までは頑張って見てもらいたい。
私はこのエピソードと、最終回の老作家のモノローグを何度も見返している。