「サバイバー〜60日間の大統領」(2019年)
今回完走したドラマは、アメリカの「サバイバー〜宿命の大統領」の韓国版リメイク「サバイバー〜60日間の大統領」。
アメリカ版のファンでシリーズすべてを見ていたのですが、韓国リメイク版はコンパクトながら「民主主義への信頼を失わない」という覚悟にも似た強いメッセージを込めた佳作に仕上がっていました。
「北朝鮮に融和的な大統領が、国会議事堂爆破テロでほとんどの国会議員とともに謀殺される」というところから始まり、解任寸前の環境庁長官が代行に就任する状況設定はほぼ同じ。
ただ、その後の脱北者差別・韓国軍への支配を強めたい在韓米軍の思惑・軍事クーデター計画・大統領代行暗殺未遂などをはさみながら、ジェットコースターのように「テロ計画者」に近づいていくストーリーは、長編映画を見ている濃密さでした。
さまざまなエピソードを通じて表現されていたのは、国民に幻滅し、民主主義を疑い、暴力や恐怖による政治(支配)に誘われてしまった者に、どのように向かい合っていくのかという問い。
大統領代行を演じたチ・ジニは、学者あがりで権謀術数などにおよそ縁のない「良い人」として、ねじれている政治の世界の力学にほんろうされながらも信念を曲げない姿を熱演。ドラマの中にしか存在しないファンタジーのような人なのかもしれないが、だからこそ役者の身体をもって描かれることが必要だったように思う。
そして、決してイケメンではないが、味のある若い秘書官役を演じたソン・ソックが非常に良かった。熱情に突き動かされるところもあれば、抜けたユーモアとかわいらしさがある。
日本でいえば柄本佑系ですね。
以下ほんの少しネタバレです。
最終回は、今の日本に生きる自分にも、日本の政治にとっても示唆ある言葉がてんこ盛りでしただが、そのうち2つだけ。
「試行錯誤はしますが、その過程を含めて歴史ではないでしょうか」
「政治は、神が与えたすべての苦痛に対する、人間の絶え間ない答えです」
こういう言葉が連続ドラマとして放送されるクオリティが本当にうらやましい。そしてこれを「面白い・すごい」と評価する人たちが日本にもいるんですよね。
このドラマを見て思い出したこと
ソン・ガンホとイム・シワンが共演した映画「弁護人」(盧武鉉大統領の弁護士時代がモデル)に、「岩は固くて死んでいるけど、卵は生きている。卵はいつか鳥になって、岩を越えていくのです」というセリフがありました。
ソン・ガンホ主演『弁護人』11/12より新宿シネマカリテほか全国順次公開
これは1930年代・日韓併合時代の京城(現ソウル)を舞台にしたドラマ「カクシタル」にも同じセリフがあったと記憶しています。独立を訴える朝鮮の女性が拷問を受けながらも、日本人警察官にこの言葉を放つのです。
岩のように強固な権力に比べれば、1人1人の存在や抵抗は卵のように壊れやすい。
ただ、あきらめずに試行錯誤を続けるしかない。その先にしか鳥は飛ばず、民主主義は実現できない。
こういう粘り強い強靱さを、変奏曲のように何度もリマインドする厚みが韓国のエンターテイメントにはありますね。
日本でも衆院選が今年あります。
「民主主義を諦めない」ことをインプットするには、お勧めのドラマです。